「駅チカ」「接客重視」の戦略で、ブライダル業界の常識を打破

 70万7000組。これは09年の婚姻数である(厚生労働省調べ)。そのすべてが結婚式を挙げるわけではないが、挙式の費用を考えればいかに大きなマーケットであるか想像がつく。そんなブライダル業界で注目を集める企業がエスクリだ。これまでの業界の常識を次々に打破して、快進撃を続け、設立7年にしてマザーズ上場を果たしたその経営戦略に迫る。

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エスクリ出店実績（下段にエスクリ、岩本博社長インタビュー)

今から18年前 、結婚にまつわる常識をひっくり返すような出来事が起こった。リクルートのブライダル情報誌『ゼクシィ』の創刊がそれである。当時、ブライダル情報を提供する媒体は皆無に等しく、結婚式も一部を除いて式場主導の画一的なスタイルが主流だった。ブライダルの消費者層と言えば、海外の映画やドラマを通じて、スタイリッシュな結婚式の洗礼を受けていた情報感度の高い若い世代。自分らしい挙式をしたいと思っていた消費者は、『ゼクシィ』ではじめて望みに応えてくれる式場の存在を知ることになる。

さらに遡ること1年、ブライダルを新たなビジネスチャンスと捉え、『ゼクシィ』創刊に向けてプロジェクトチームが編成された。そのメンバーのひとりに名を連ねていたのが今、エスクリの代表取締役社長を務める岩本博である。

新しい事業の立ち上げに関わりたかったという岩本氏は、すぐに幸せを作り出すビジネスの魅力と可能性にとりつかれていく。マーケティングで浮かび上がったのは、情報不足の消費者と、ニーズをつかみかねていた企業という構図だった。営業責任者を任された岩本氏が行ったのは、カップルの希望を丹念にすくいあげ、式場に新たな商品開発の提案をすることだ。ニーズをとらえた式場の業績は確実に伸びていった。以来、10年にわたって『ゼクシィ』でマネージメントや業界セミナーに携わってきた岩本氏だが、常に感じていたのは、ブライダル業界はまだ消費者のニーズに十分に応えていないのではないかということであった。より的確に、きめ細かく応えることでビジネスチャンス拡大の余地があるのではないか。

03年、これまで培ったノウハウを活かし、岩本は株式会社エスクリを設立する。社名の由来は“STAFF CREATE”。そこには人（スタッフ）の力、ソフトウェアを核にしたブライダル企業を目指すという思いが込められていた。

■「人財」育成に注力し、立地条件を活かした斬新な式場運営で躍進

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多くのブライダル企業は何よりも施設を重視していた。豪華絢爛な外観。洒落た佇まい。だが、人と同じことをやっていても意味はない。もちろん施設のクオリティは重要だが、それ以前に消費者の求めているものがある。岩本氏には接客力を高めることにこそビジネスチャンスがあるという読みがあった。だからこそ、岩本氏は人材ではなく「人財」という言葉を用い、スタッフの育成に注力する。

そしてもうひとつ特筆すべきことがある。それは、エスクリが運営する施設のすべてが首都圏を始めとする大都市圏のターミナル駅の近くにあることだ。結婚式・披露宴は各地から老若男女が集うイベントである。豪華な式場であってもアクセスがしにくければ、消費者の支持は得られない。都市圏であれば少子化の影響も受けにくい。そして出店する際には、レストラン、ホテル、ゲストハウス、専門式場など、その場所、空間に合ったスタイルの施設をプロデュースすればいい。

05年、神戸に最初の結婚式場を出店して以来、現在まで東京・青山、広尾、八重洲、名古屋、新横浜と、6つの多彩な店舗を手がけ、来年は銀座、名古屋、大阪に2店、新規出店の開業を予定するなど、その勢いはとどまるところを知らない。

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業界の常識を覆し、「人財」の力で業績を伸ばし続けるエスクリの経営戦略には、多くの企業にとって参考になるアイデアのヒントが隠されていると言えそうだ。