【ドラフト】注目の候補たち（4）習志野・山下斐紹～気持ちでプレイする強肩強打の大型捕手

一歩目が違う。
それが習志野・山下斐紹（やました・あやつぐ）の売りだ。

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今夏の千葉県大会５回戦の松戸国際戦でのこと。３回無死二塁の場面で、投手前に転がったバントに猛ダッシュ。打球を素手でつかむと、三塁に矢のような送球を送ってアウトにした。
「バントとだいたいわかっていましたし、左バッターだったので、一歩目も切りやすかった。うまいバントで人工芝。回転もきれいだったので、そのまま素手でいきました。」

じつは、この走者は味方の失策で許していた。流れを相手にやらないためにも、絶対に刺す。普段はミットで捕るところを素手で捕りにいったのも、ここが勝負の場面だとわかっていたからだ。気持ちを前面に出すプレイぶりから熱いだけのように見えるが、冷静な判断力も持ち合わせている。

もちろん、この一歩目の早さを生んでいるのには秘密がある。山下は普段の練習から、常に防具をつけていたのだ。真夏の100メートルダッシュでも、防具をつけて走る。しかも、山下はキャプテンということもあり、先頭を走ることを義務づけられていた。

「今の防具が軽いというのもあるんですけど、防具をつけていてもつけている感じはしません。違和感はないですね。動きも自分の中では変わらない。最初はやっていてつらかったですけど、今はよかったと思います」

もうひとつ、山下の売り物は二塁送球１秒79を誇る強肩だ。遠投115メートルと地肩の強さも抜群だが、何よりも素晴らしいのが捕ってから投げるまでの素早さ。実は、ここに山下のこだわり、工夫があった。
「握り替えのときはボールを捕らないんです。走ったと思ったら（ボールをミットに）はじく感じですね。だから、ミットの型を特別にしていました」

山下のミットは中指、薬指、小指の部分が曲げられている。見た目は内野手用のグラブに近い。こうすることで、ボールが深く入ってしまうことを防ぎ、当てて握り替えをしやすくしているのだ。また、握り替えの際に工夫していることがある。通常、ボールは人差し指と中指で持つが、山下はこれに薬指も加えて３本で持つ。

「最初から２本だとうまく握れないので、３本で持って、投げる前に２本に替えるのを意識していました。握りがちょっと変でも、普通に投げれば（ボールは）いくので。２本で持って不安定なまま投げるよりも、３本の方が握りやすいんです」
誰に教わったのでもない。早さを求めた結果、自然と生まれたやり方だった。

さらに山下が超高校級といえるのが試合に出るという意識。今春の関東大会で二塁送球が全てシュート回転していたのが気になったが、その理由を聞いて仰天させられた。
「じつは、右手の人差し指を骨折していたんです」

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ヘッドスライディングの際に突き、指が曲がって骨が突き出た状態だったという。それでも、休まなかった。というより、１年秋にレギュラーになってから、ケガを理由に一度も欠場していない。２年春のセンバツでは彦根東戦中に左肩を脱臼、センバツ後は右足の肉離れと満身創痍だったが、それでも試合に出場し続けた。
「（チームの中心は）抜けたらダメというのがあるんで。（試合に出ず）見ているなら、痛くてもやりたいんです」

下級生時に上級生相手に物怖じしない態度で引っ張っていた姿、グラウンドで闘志を前面に出してプレイする姿から誤解されがちだが、「自分、どれぐらいの大きさで載りますか？」と聞くように、素顔は普通の高校生。その一方で、自分がどう思われているかもちゃんとわかっている。

「先輩から『気を遣ってリードされて失敗するなら、そうじゃない方がいい』と言われていました。少しやりすぎっていうのもあったんですけど（笑）。熱くなりすぎて失敗？　ちょっとあります（笑）」

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勝ちたい気持ちが強いがゆえに、熱くなる。熱くなるからこそ、力が出る。そんなやんちゃなところがあるからこそ、山下は何かをやってくれそうな予感がする。